特集 氏子の想い Vol.7

特集 氏子の想い

御柱祭のお客様を、90余年伝承の味でおもてなし

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菊池正男さん
大社煎餅 製造部長

―「大社煎餅」はその名の通り、まさに諏訪を代表するお煎餅ですね。

■菊池 創業90余年、ここ諏訪大社のお膝元にて手作りにこだわってお煎餅を作ってきました。代表的なピーナツせんべいをはじめ、カステラせんべい、ゴマせんべい、塩羊羹、塩最中などをお作りしています。素材選びから製造、梱包に至るまで、手間をかけて丁寧に魂を込めてお届けしています。

現代はお菓子の世界でも機械化が進み、量産される所が多くなっていますが、私たちはあえて手作業による製造を続けています。なぜなら、私どものお煎餅の、人間の手の感触や視覚によるきめ細やかな作業は機械にはできないからです。素材や作り方に妥協しないので、「何もそこまで生真面目にやらなくても...」と言われる方もいらっしゃいます(苦笑)。でも、そこまでしなければ出せない味があると思っています。

―菊池さんの「大社煎餅」入社の経緯は?

■菊池 初代社長が同郷の出だったんです。私が15歳の時、今から55年前の1960(昭和35)年頃のことです。社長が「働き手がほしい」と学校を訪ねてくださいました。兄弟も左官屋や大工など職人の道を歩んでいましたし、私自身も菓子職人になりたいという思いを抱いていました。うちの親も「大社煎餅」でお世話になることを賛成してくれましたので、学校卒業後すぐに入社しました。

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―どんな修業時代でしたか?

■菊池 当時は、ある程度仕事ができるようになるまで、食事つき住み込みで働く、いわゆる「奉公」と呼ばれる仕組みがありました。私の場合はおおよそ5年間、ひたすら先輩について学びました。学ぶとは言っても、手取り丁寧に教えてもらうなんてことはありません。先輩が材料を混ぜて、種(生地)を作ったり、焼いたり、焼き上がった煎餅を切ったりする。その作業を傍らで見ながら、先輩の技を体得していくんです。おかげで、自分の目で見て、頭で考えて、状況の変化にもすぐに対応できる習慣が身についたように思います。

―一人前と言えるようになったのは、何歳くらいでしょうか?

■菊池 いえいえ、55年やってきた今だって試行錯誤の毎日です。手作り、手焼き、手切りというのはそれだけ繊細なんです。レシピ通り、手順通りにやったからと言って、同じ品質を保てるとは限らない。素材の状態、湿度や温度によっても微妙に仕上がりに差が出てきます。それでも私たちの手で、いつもの"「大社煎餅」の味"に仕上げねばなりません。

たとえば、煎餅の原料は、自然の中で育まれるものですから、その時々で生育条件が異なります。同じ産地でも収穫時期が違えば状態も変わってしまいます。ピーナツやゴマですと、当社の基準を満たさなければ返品します。それだけ厳しく選んでいます。

そして、私たち職人はその時の原料の状態により、各工程で細かい調整をしていきます。さらに、1日に何回も、必ず自分が食べて味を確かめます。これを50年以上毎日繰り返しています。それでも、なお、新たな発見があって、日々精進・日々勉強ですね。ですから、私は、一生一人前にはなれないということです(笑)。

―仕事と自分に対して厳しいんですね。挫けそうになったこともあるのでは?

■菊池 それは、ありません。自分で何でも判断してゼロから覚えなければならなかった修業時代は、確かに苦労しました。でも、同じ学校出身の先輩が何人もいましたし、心が挫けそうになったことは一度もありません。

逆に、終わりのない仕事だからこそ、つねに、やりがいを感じられるのではないでしょうか。その結果、どこにも負けないものが作れるのは、やはり自信にもなり、誇らしいことです。

―これから若手指導という役割も、大変ではないでしょうか?

■菊池 時代が違いますから、私の修業時代のような指導はできません。ただ心構えとして同様に大事にしているのは、本人に自ら考えさせて判断できるようにする、そういう指導ですね。たとえば、まず本人に味見をさせて、その後で私がチェックします。私が最初に答えを出してしまっては本人のためになりませんから。本人は当然プレッシャーを感じると思いますが、製品づくりの要の部分は緊張感をもって伝えるべきですね。職人はこうして自分で考えることで進歩していくと思います。奉公という仕組みこそありませんが、教え方、育て方の基本は大社煎餅の中ではずっと貫かれています。

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―来年は、いよいよ御柱祭の年ですね。

■菊池 御柱祭がある年は、ありがたいことに毎回、いつも以上に忙しくさせてもらっています。あの忙しさが戻って来るたび「大社煎餅」の味が日本中に広がっていることを実感しています。ですから実は、こんなに近くのお祭りなのに、私自身は御柱祭を見たのは一度だけなんです。ずっと仕事で忙しくしていますからね。その一度の体験も、入社した年ですから。当時の社長(現会長)にスクーターの後部座席に乗せてもらって、茅野まで出かけ、御柱祭を見学しました。それが唯一、私の御柱祭の思い出です(笑)。
それでも大社煎餅は、御柱祭にいらっしゃったお客様に、魂を込めたお煎餅でおもてなしをしており、これが私たち流の御柱祭です。おもてなしはお祭りにとって、重要な役割を担っています。御柱祭や諏訪の思い出を持ち帰っていただくために、本物の味を作り続けること。それが私たちの果たすべき地元への貢献だと思っています。

―最後に、来年の御柱祭を見に来る方へ、メッセージがあればお聞かせください。

■菊池 平成27年の夏、上諏訪の店舗がオープンしまして、奥は煎餅をつくる工場、手前は販売のショップスペースという造りになりました。約90年前の創業当時、いい香りを漂わせながら職人が煎餅を焼いていて、その様子をお客様も見ることができました。今回のリニューアルでは原点回帰という意味もあり、それを再現しようということで、ガラス越しではありますが、私たち職人の手作りの様子をお客様にご覧いただけるようにしました。実は、焼く香りもダクトを通して、お客様がいらっしゃるショップスペースへ少しだけ流れるようになっています。お煎餅を焼く、いい香りがほんのりと楽しめますよ。
この新店舗には、長年ご愛顧いただいている地元のお客様への恩返しの気持ちと、県外から訪れてくださるお客様にもう一度原点に立ち返った「大社煎餅」を見ていただきたい、という想いを込めています。御柱祭に訪れるお客様には、ぜひ、こちらの新店舗も楽しみに、立ち寄っていただければと思います。

(平成27年8月取材)

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