特集 氏子の想い Vol.8

特集 氏子の想い

自然をまもり、御柱をまもる

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杜と泉を護る会
会長 五味武彦さん
御柱の森づくり協議会
会長 村田友光さん

 

諏訪大社の御柱祭では、長い伝統の中で、樅の大木が必要とされてきました。しかし、台風豪雨など災害の影響や鹿による食害等によって、年々、御用材となる樅の確保が困難になってきています。そこで、安心に樅の木を確保し、御柱祭を将来にわたって継続させるために、上社と下社、それぞれの氏子たちが立ち上がりました。(平成27年9月取材)

 

<上社の樅の木をまもるために...>

杜と泉を護る会 会長(自然と地域と人を結ぶ協議会 会長)
五味武彦さん

―まず『杜と泉を護る会』の発足の経緯についてお聞きしたいのですが...

■五味 そもそも上社では古くから御用林である御小屋山から御柱となる樅の木を確保してきました。目通り周囲250cmから300cm以上の樅の大木が8本必要です。平成4年の御柱祭までは、御小屋山から確保できましたが、そのとき、いちばん太い「本一」の御柱が2m70cmしかありませんでした。そのこともあって平成10年以降は、下諏訪町東俣国有林・立科町町有林・立科町蓼科国有林から、それぞれ太い樅の木が提供されるようになりました。

―御小屋山には、もう御柱になるような巨木はないのでしょうか?

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■五味 現在 、目通り2m90cmくらいの樅の木はあります。しかし、専門家に聞いたところでは、年間に目通りで1㎝しか増えないそうです。直径でいうと約3mm、10年間で直径3cmしか増えません。あと数十年から百年は成長を待たなければなりません。もっと先を見越して、すでに御小屋山では植樹などの森林整備活動も行っていますが...そのような背景がございまして、御柱の御用材を確保するための民間の森林保護団体として『杜と泉を護る会』が平成26年6月に設立されました。会のメンバーは、御柱祭をよく知る人間からということで、平成16年以降の大総代経験者を中心に組織されています。私は、前々回の御柱祭では上社の安全対策委員長、前回は中州の催事委員長をやりまして、そういう流れからこの会長を引き受けさせていただきました。

―具体的に、どのような活動をされるのでしょうか?

■五味 まず御用材となる樅の木を、南信森林管理署の方と相談しながら、その候補地を絞っていきます。来年、平成28年の上社の御柱8本は、辰野町の横川という地から、ということになりました。地元の方のご理解とご協力のおかげで、御用材として確保できたわけです。御柱となる木を探して、このように選定することを「見立て」と言いますが、我々、会のメンバーは見立ての立ち合いから、実際に伐採するときの立ち合い、その後の清掃作業、そして翌年、その地の周辺に植樹することを含めて行うことになります。『杜と泉を護る会』は、いわば作業奉仕の実行部隊です。さらにこの会が行政の賛同を得て発展し、森林管理署の窓口として『自然と地域と人を結ぶ協議会』という組織ができました。

―そういう地道な活動が、御柱1200年の歴史をこれから未来へ向けて支えていくことになるのですね。最後に、五味さん個人としての御柱祭への思いをお聞かせください。

■五味 私は昭和14年生まれですが、幼い頃から氏子として御柱祭をたくさん経験してきました。昔とまったく同じというわけにはいかない部分もありますが、少し懸念するのは「見せる」ことを意識し過ぎているかな、ということ。私としては、きちんと祭りの伝統を護ってもらいたいという思いが強いですね。

―五味さんのように昔を知る方と、昔を知らない若い方が一緒に祭りをつくっている。外の人間から見れば、それも、御柱祭の大きな魅力だと感じます。

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<下社の樅の木をまもるために...>

御柱の森づくり協議会 会長 (御柱用材を育む会 前会長)
村田友光さん

―『御柱の森づくり協議会』の目的は?

■村田 下社では東俣国有林から御柱を確保していますが、この御柱を切り出す山林を保存して、代々御柱が続くようにという趣旨で平成14年に設立されました。実際の活動としては、国有林の管理に当る南信森林管理署と協定を結んだり、御柱の用材となる樅の木を毎年植樹しています。

―何本くらい植樹するんでしょうか?

■村田 下諏訪町には10区ありますが、各区3本ずつ樅の木の苗場をつくってそこから苗を抜いて30本。さらに、ほかの32本を合わせて、東俣国有林の指定されたところに植樹します。実は、この協議会が生まれた背景には、『御柱を育む会』という任意団体の存在があります。御柱に携わっている有志が集まって東俣国有林の調査をして、樅の木が鹿による食害で大変だということがわかりました。御柱祭の長い歴史のなかで、御用材を確保し続けるためには、このまま食害を放置してはいけない。各区から選ばれた純粋に木を護っていこうというボランティアによって平成8年に『御柱を育む会』が組織されました。この会がもともと木の保護を始めた実行部隊です。そして外部と折衝したり、苗木などの活動予算を確保したり、いわゆるプランニングの役割として、後に『協議会』ができました。

―樅の木を植樹するだけではない、ということですね。

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■村田 毎年、6月頃、『協議会』として植樹を行いますが、それとは別に『育む会』では春と秋に独自の作業を行っています。鹿による食害から木を保護するため、樅の木の根っこから高さ2m50cmくらいまでネットを巻いていきます。木は成長しますから、巻き直しの作業を含めて、半日がかりで約100本の木に処置をしていきます。 ―かなり大変な重労働ですね。

■村田 ときには森の深くまでひと山越えて、重いネットを背負って入っていきます。会員数は約150名、作業の日はよほどの大雨ではない限り、100名を越える会員が集まってくれますよ。20代30代の若い世代がメインで働いてくれます。さすがに高齢者にはキツい作業ですから。

―御柱を護っていこうという意識が若者にも浸透しているんですね。これからも、その意識の継続は重要な課題ではないでしょうか。

■村田 私は高校生から『長持ち保存会』に携わりましたが、それが私の「御柱への思い」に通じる大きな体験になったと思います。ただ普通に綱を曳いているだけではなく...たとえば小宮の御柱では、子供から、伐採や綱打ち、梃子、木遣りなどを体験できます。そういう関わり方をすれば、興味の持ち方だって違ってくるはずです。

―諏訪には、そういう「思い」をつなげる地域性がありますね。

■村田 結局、御柱をまもるということは、山をまもることであり、自然をまもることにもつながります。私たちが御柱祭の中で培ってきた自然な「思い」と活動の広がりを、これからも子供たちに伝えていきたいと思っています。

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